2019年版「氷艶」感想~ユリア・リプニツカヤに寄せて~

先日横浜アリーナで行われたアイスショー「氷艶」初日昼の部を観てきました。

(公式HP)

2017年に歌舞伎とフィギュアスケートの融合という新しい試みから行われた同名アイスショーですが、今回は演出家に宮本亜門さんを迎え源氏物語をテーマにした総合舞台芸術と形容できるようなものに仕上がっていると思います。

氷艶というアイスショーの存在自体は知っていたのですが正直そこまで興味は惹かれず今まで映像、会場ともに見る事はありませんでした。

今回見に行きたくなったのはもう引退されてしまわれましたがロシアの女子フィギュアスケーターユリア・リプニツヤカさんが出演されるという情報を知ってからです。

 

彼女を有名にしたのは何と言っても2014年に自国ロシアで行われたソチ五輪団体戦でのSPとFSの演技だと思います。自国民やプーチン大統領の期待を一身に背負った舞台で15歳ながら素晴らしい演技で団体戦優勝に貢献した姿はロシアだけでなく他の国にも大きなインパクトを残しました。私もそれまでにNHK杯などで演技を見てはいたと思うのですがあまり印象には残っておらず、この時の2つの演技を見て「何か新しい競技スケートの方向性を目撃した」と感じました。その後のロシア女子、主にエテリコーチの教え子達の活躍を見るに彼女がその隆盛の始まりだったのは確かでしょう。

ソチ五輪団体戦SP

音楽:マーク・ミンコフ

振付:イリヤ・アヴェルブフ

同FS

音楽:「映画シンドラーのリストサウンドトラックより

振付:イリヤ・アヴェルブフ

ただ、成功には功罪あるものでそれ以降の彼女は予想だにしない注目度の高まりに苦しめられる事になるのですが…。

 

ソチ五輪個人戦では5位という結果に終わるもそのシーズンの世界選手権で銀メダルという結果で見事にその悔しさを晴らします。(埼玉で行われたこの世界選手権は羽生結弦町田樹の戦い、浅田真央の優勝や表彰式の素晴らしい雰囲気といい自分の中で最も印象深い世界選手権てす)

 

しかし翌シーズン以降の彼女は成長期からくる体型変化によるジャンプの狂い、ルール改正により厳格化されたルッツジャンプのアウトエッジの不明瞭さに悩まされます。

彼女の物語性のある演技とロシアというよりソビエト連邦的な哀愁や慈愛が漂うような雰囲気に魅力を感じていた私は何とか再び上昇して欲しいと願っていたのですが、特に体型変化という女子選手特有の悩みは摂食障害による現役引退という幕切れをもたらしてしまいました。最後の1年は応援していても辛かったです。ルッツジャンプに関しては移籍したアレクセイ・ウルマノフコーチの元で良くなっていたと思うのですけども…。ソチ五輪までは多く表彰台に上り結果を残していただけにご本人が1番辛かったと思います。

最後の競技会での演技です。

2016年GPSロシア大会SP

音楽:ジョゼフ・コズマ

振付:ステファン・ランビエール

同FS

音楽:映画「キル・ビルサウンドトラックより

振付:アレクセイ・ウルマノフ、オリガ・ポヴェーレンナヤ

フリー後キスクラでの何とも言い難い悟ってるようにも見える表情が切ないですね。。。

 

現役引退後しばらくは大学でのスポーツマネジメントの勉強に専念し氷上に戻る事はなかった彼女ですが、仲の良いペアスケーターであるイリニフさんと立ち上げたスポーツアカデミーでの指導やプルシェンコさん主催のくるみ割り人形をテーマにしたアイスショーへの出演など徐々に氷の上へと戻ってこられる事が増え嬉しかったです。そんな中で発表された今回の「氷艶」。会場である横浜アリーナから遠く離れた地方民とはいえ、この機会を逃したら絶対に後悔する!!と往復日帰り航空券と公演チケットを買うのに躊躇いはありませんでした!(清水の舞台から飛び降りる気持ちとはこのこと!w)

 

羽田空港から横浜プリンスホテル行きバスに乗り会場へと向かいます。


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前にライブで来て以来横浜アリーナは久しぶりです。そんなに変わって無かったですねー。


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開演1時間前には会場周辺に沢山の人がいました。人気だなぁ。

 

無事に入場すると館内は売り場も大賑わい。ガチャもやってました。(やらなかったけどw)


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開演までは撮影OKとのことでリンクをパチリ。


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以下写真なしの感想。

今回の舞台で驚いたのは単に氷上を滑るだけでなく、インタラクティブプロジェクションマッピングという技術を使いスケートの軌跡を追うような光の演出をリンクの上で行っていました。時に花が舞うように、時に光の粒が追うように、リンクや舞台奥の壁を彩り、1つの空間をそこに創造していてそれが物凄く効果的だったと思います。

アイスショーで過去の常識を飛び越えたような空間演出は町田樹さんがPIWで何度か行っておりPIW横浜2017 町田樹 Don Quixote Gala 2017:Basil's Glory - YouTube)自分はそこに新たなアイスショーの可能性を感じていたのですが宮本亜門さんはそこに更に舞台芸術の要素を組み入れて新しい世界を作り上げていました。幕毎の切り替わりのテンポ感やそこで使われる音楽、リンクを縦横無尽に動きながら小道具大道具を使い展開される源氏物語の世界はこれまでになかった全く新しいショーとして成立していたと思います。

2017年の氷艶はまた違った良さがあったようですね。

20!7年版「氷艶」

 

特に驚いたのは高橋大輔さんのお芝居と意外にも(?)上手かったミュージカル的な歌唱シーンでしょうか。特にお芝居の面は宮本亜門さんの演出もあったのか舞台の型に適応されてた印象で、見ていてあくまで芝居素人のスケーターさんだからなどの違和感はなかったです。

役者さんの中では波岡一喜さんが滑りもお芝居もとても素晴らしくて、個人的MVPは彼ですねー!いい悪役っぷりでした!

 

そして私の最大のお目当てだったリプニツカヤさん。。初めて生で彼女のスケートを見ましたが、朱雀役のステファン・ランビエールさん共々台詞無しながら紫の上を見事に氷上で表現されていたと思います。

私は割りかし冷静に見るタイプですが、憂いのある美しい音楽に乗りながら舞う紫の上は見ていて言葉が要らない程の何かを感じました。やっぱり彼女は素晴らしい音楽と情感の表現者だと思います。

稽古中の映像とコメント。

インタビュー中の表情が楽しそうで充実してたのでしょうね。

 

私は恥ずかしながら源氏物語をまともに読んだ事がないので幸か不幸か最後まで先の展開を知らずに見終える事が出来ました。悲しい展開も多く、手放しで喜べるようなラストではありませんでしたが、ラストに語られる藤壺の台詞「あの方は月でございました。月は夜の孤独の中でこそ美しく輝くものでございます」はまるでスケーターの1つの本質を捉えた表現のような気もして、シミジミと聞き入っていました。

平原綾香さんもポップスの世界からミュージカルの世界に舞台を広げておられるのですね。流石の歌唱力……!!

 

終演後は万雷の拍手と歓声が会場を包みました。私も思いっきり手を叩きました。

氷艶関連ツイートまとめを上げて下さってます

 

最後に雑感。

 

今回見終えてみて、そんなに多くのアイスショーを見ていない私が言うのも烏滸がましいのですけど、舞台芸術としてもエンターテイメントショーとしてもフィギュアスケートにはまだまだ無限の可能性が眠っていると感じました。観客席まで巻き込んだ演出は町田樹さんが「スワンレイクで実践されましたが、CaOI2017 町田樹 Swan Lake:Siegfried and His Destiny - YouTube)ああいった事も演劇やミュージカルでは有り得ない演出ではないですし、単に良い音楽と華やかな照明の中で有名スケーターが滑る事でファンを満足させ興行するだけではなくて、トップスケーターでなくても、更にはスケート畑の人でなくても、テーマ性や演出と修練によって新しい娯楽や作品を提供し楽しんで貰えるのではないかなーと。そういう新しいビジネスモデルみたいなものも簡単ではないにしても不可能ではないかも知れません。

高い日帰り旅行でしたが本当に楽しく幸せな時間を過ごさせて貰いました。

改めて関わった全ての方々に尊敬と感謝を!!

そしてまたいつかリプニツカヤさんの表現する世界観を日本の会場で見てみたいなーと願ってます。とにかくまずは元気でいてくれたら嬉しいなー。

 

初日終演後の演出の宮本亜門さんと主演の高橋大輔さんのコメント。この時の言葉は大袈裟では無かったと断言したい!!