「天気の子」レビュー〜世界なんて狂ったままでいい〜

今年の映画界で注目の興業作品になりそうな新海誠監督最新作の「天気の子」を観てきました!

映画「天気の子」予告編

前作「君の名は。」は映像ディスクでの鑑賞でしたので今回は映画館で新海監督の美しいアニメーションを見るのを楽しみにしていました。
新海さんは「ほしのこえ」で全ての作画制作をパソコンを使い自分ひとりで行うという異例の制作手法でデビューされた監督さんです。

映画「ほしのこえ」予告編

秒速5センチメートル」ではその後味のリアルな苦さで全国の男子の胸をキリキリ痛めたことで一部では有名です!

映画「秒速5センチメートル」予告編

新海誠作品というと男女2人の関係性を中心にしてその周りの世界をとても美しく描く事で知られてると思うのですが、批判が多かった(らしい)「星を追う子ども」から徐々にそれが変化してきて、もっと広い視野や世界観で物語を描く事が増えてきた様な気がします。
そして社会現象となった「君の名は。」は明確に大ホール的作品というか、沢山の人が見る事を意識しながら誰の中にもある「他者を求め必要とする気持ち」に寄り添うような、親子や夫婦、友人や先輩後輩などの人と人との繋がりを大切にした作品に仕上がっていたように思います。

ただ新海さんの根幹はやはり『離れ離れになった織姫と彦星』なんですよね。今作「天気の子」でもそれは変わっていないと思います。
その上で監督ご自身もインタビューなどで仰るように、今の時代の空気感や生活感、そこで生きている人達の願いをより意識しながら作品を送り届けようとしていたのが伝わってきました。

新海誠「『君の名は。』を公開する前頃から、なんとなく自分たちの手にバトンやボールのようなものが来ているという感覚がありました。客観的な事実は別として、なにか今、僕たちの手には誰かから受け取ったものがある。そして今はそれを持って自分が走る順番なんだという気がしていたんです。この感覚がいつまで続くものなのかはわかりませんが─いずれ消えるんだろうなという予感もあるんですが、でもとにかく今は「バトンを持っているんだから走らなければ」という気持ちがあるんです。」

「天気の子」 パンフレットより抜粋

日本は高度経済成長期を過ぎて、世界はグローバルなモノのやり取りや資本が入ってくる時代になりました。昔の様に頑張れば報われるとか、大きな会社に所属すれば安泰とかの絶対的な価値基準がなくなり、温帯だった日本の気候も亜熱帯と言って良い気候になっています。
少し前の常識では考えられない様な事が起こる時代に突入しているのは多くの人が薄々感じてると思います。

そんな時代に人は何を拠り所にしながら生きていくのか、何を大切だと思って生きるのか、そんな事を新海さんが考え己の中で問い続けながらエンターテイメントという形を忘れず多くの人と創り上げたのが今作じゃないかなーと感じてます。

大人になるに従って分別や常識に沿って自己保身をしながら生きるようになりがちで、それは必ずしも悪い事ではないと思うのだけど、「皆に迷惑をかけないように」「世の中そういうもん」「我儘言わずに世の中の流れに従って生きよう」そんな声に縛られず本当に心のから大切(だと感じる)存在の為にただひたすら全力で身を捧げたのがこの作品の主人公穂高くんてあり、そんな彼の姿を見て、「青いね少年!」と思いつつ「頑張れ少年!!」と背中を押したのがこの作品の裏主人公(だと私が勝手に思っている)須賀圭介なんじゃないかなぁと。

私は須賀さんや夏美さんの立ち位置に近いと思いますが、だからこそ10代の人達特有の瑞々しさやひたむきな純粋さのかけがえの無さを感じたりしました。
帆高役の醍醐虎汰朗さんも陽菜役の森七菜さんもとても真っ直ぐで素敵な演技でしたし、須賀役の小栗旬さん、一部では不安視されてたという(苦笑)夏美役の本田翼さんもとても役にあったお芝居をされてて見てて引き込まれました。

「世界なんて、狂ったままでいいんだ!」と陽菜に真っ直ぐ言ってのけた帆高くん。物語の結末は全体幸福と個人幸福との対立の様な形も見せますが、倍賞千恵子さん演じられた立花冨美さんの最後のセリフは新海監督から特に若い世代の人達に送ったエールの様な気がします。

とりあえず近いうちにもう一回劇場に見に行きたいですね!

「愛にできることはまだあるかい」

RADWIMPS